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『ザ・ファブル』

本格的アクションとコメディを大画面で楽しめる1本

兵頭頼明兵頭頼明

2019/06/26

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(c) 2019「ザ・ファブル」製作委員会

4月26日に公開されたシリーズ完結編『アベンジャーズ/エンドゲーム』に真田広之が出演している。彼は無法地帯となった日本を描いたシーンに剣の達人として登場。主要キャラクターの一人と格闘を繰り広げる。わずかワンシーンの特別出演なのだが、監督のこだわりによりワンカットで撮影されており、真田はキレ味抜群のシャープな殺陣で強烈な印象を残す。CGで何でもできてしまう昨今のアクション映画に飽き飽きしていた筆者は、生身の肉体が躍動する本物のアクションに唸らされた。

芝居が上手い俳優はいくらでもいる。しかし、高い演技力と身体能力を兼ね備えた俳優は極めて少ない。真田はその二つを併せ持つ稀有な俳優であり、「肉体で完璧に語ることのできる俳優」なのである。

真田はハリウッドに活動の拠点を移してしまったが、日本では彼の後継者たる俳優が活躍している。岡田准一だ。

岡田の前作は葉室麟の同名小説を映画化した時代劇『散り椿』(2018)。彼はこの作品で初めて「殺陣」のクレジットを得、岡田オリジナルのダイナミックで華麗な殺陣を披露した。フィリピン武術のカリ、ブルース・リーが創始した截拳道(ジークンドー)、そして総合格闘技USA修斗のインストラクター資格を取得するほどの格闘技愛好家であり、時代劇における所作も美しい。岡田本人は全く意識していないだろうが、筆者は彼を真田の後継者と目している。

そんな岡田准一の最新作『ザ・ファブル』は、南勝久の人気コミックを実写映画化した作品である。

どんな相手でも6秒以内に殺すと言われる謎の殺し屋“ファブル<寓話>”(岡田准一)は裏社会で伝説の存在として恐れられていた。ハイペースで仕事をこなし続けるファブルに、彼を育て上げたボス(佐藤浩市)は新たな指令を与える。その指令とは「一年間、一般人として普通に暮らせ。休業中に人を殺したら、俺がお前を殺す」というものだった。ボスには絶対服従するファブルはアキラという偽名を使い、相棒のヨウコ(木村文乃)と兄妹のふりをして大阪へと向かう。

アキラ=ファブルはボスの伝手で真黒カンパニー社長の海老原(安田顕)に世話になりながら、一般社会に溶け込もうと必死に努力する。街角で偶然出会ったミサキ(山本美月)にバイト先を紹介され、普通の生活に慣れてきたアキラであったが、周囲は彼を放っておかず、海老原の弟分で出所したての小島(柳楽優弥)と現幹部の砂川(向井理)、若き殺し屋フード(福士蒼汰)らが彼の穏やかな日常を脅かし始める。

アクションとコメディ、二つの要素が一体化した型破りの娯楽作品である。コミックならではの独自の世界観とアクションをダイレクトに実写化することに成功している。岡田准一の起用が、それを可能にした。

殺しを禁じられたアキラがミサキと知り合うシーン。街の不良に絡まれるのだが、アキラは彼らのパンチをまともに受けながらも実はダメージを最小限に止めるという高等テクニックを使う。顔芸とも言える大げさな表情にアキラの独白がかぶさるこのシーンは、以後の展開を観客に明示するとともに、大いに笑わせてくれる。

バイト先の給与を時給800円という割に合わない額でOKするシーンの呼吸。食事シーンでの魚の食べ方の異常さと猫舌の描写。そして一般人との会話のちぐはぐさ等々、全編にわたるユーモア感覚が秀逸で、岡田准一のコメディ・センスが遺憾なく発揮されている。
もちろん、クライマックスには大きな見せ場が用意されている。秘められた理由によりミサキが誘拐され、アキラはヨウコとともに救出に向かうのだが、絶対に人を殺してはいけないというボスの指令は守らなければならない。果たして、アキラは「人を殺さず」に「人を救う」ことができるのか。その答えを、彼は並外れた身体能力で示そうとするわけである。岡田准一の本物のアクションを、ぜひ劇場の大きなスクリーンで堪能していただきたい。

『ザ・ファブル』
原作:南勝久
監督:江口カン
脚本:渡辺雄介
出演:岡田准一/木村文乃/山本美月/福士蒼汰/柳楽優弥/向井理/佐藤浩市 ほか
配給:松竹
公式HP:http://the-fable-movie.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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